過食嘔吐が毎晩になった夜 | 過食嘔吐が治った**あなたは私の日向です**

過食嘔吐が毎晩になった夜

19歳4月

受験に失敗した私は

実家を出て就職先の近くで一人暮らしをはじめた。
就職先は病院。
女ばかりの職場とあって人間関係が不安だったが
私より半月早く入社した覚えの悪い同僚のお陰で
逆に私は「覚えが早い」と上司や先輩にかわいがられた。
専門学校へ行っていない私は
医療事務や薬の処方について何一つ知らなかったが
その日教えられた事はどんなに遅くなっても家に帰って必ず
ノ-トにまとめていた為人より早く身についたと思う。
それでも覚えることは毎日膨大だった。
落ち着いたらもう一度大学受験の勉強をしようと思っていたのに
そんな余裕は心にも身体にもなかった。


就職したばかりの頃
大学へ進学した予備校の友人や高校時代の友人が
代わる代わる訪ねてきてくれた。
みんな突然就職することになった私を

気の毒に思って励ましてくれた。
みんなの前ではとても元気そうにしていたが、

一人になると
「なぜ今私はこんなところにいるんだろう」
「私はこんなはずじゃない」

と思い落ち込んだ。


始めの頃はきちんとご飯を炊いていた。
実家でもよく作っていたので料理は得意だった。
でも慣れない仕事で疲れて帰って一人分の食事を作るのは面倒だった。

そんな頃彼ができた。
予備校生の秋からつきあっていた彼のことは
前の彼ほど好きになれなかったので
予備校卒業と同時に別れていた。
病院で看護婦さんや事務の先輩と恋愛の話になると

高校1年生の時初めてできた彼のことがずっと忘れられないと言っていた。
実際そうだと思っていた。
高校3年生の冬に、当時ケンカ友達だった男の子(今の彼です(=^^=) の

強い気持ちに負けてつきあい始めた時も

結局最初の彼が忘れられなくて別れた。
それくらい最初の彼のことが好きだと思っていたから
その彼と再会し、再びつきあうことになった時はとても幸せだろうと思っていた。
ずっと私の恋を応援してくれていた周りの友達や職場の先輩は
みんなとても喜んでくれた。
でも私はあまり嬉しくなかった。
あんなに好きだったのに。
会わなかった1年間で彼が高校時代と変わったとは思わなかったし
今まで見えなかった嫌なところが急に見えたわけでもない。
ずっと好きだったんだから嬉しいはずなのに嬉しくない。
むしろ会いたいとも思わない。
自分で自分の気持ちが理解できなかった。

彼は自衛隊で少し離れたところに住んでいたので
会いたい時にすぐ会えるわけではなかったが、
よく電話をくれて週末会いに行くと言ってくれた。
私はたいして会いたくなかったので用事があると断っていた。
疲れていたので時間があれば寝ていたかった。


今ならわかる。

私は彼のことが好きな自分が好きだったんだ。

彼のことが好きだった時期の自分が好きで、

その頃の自分に戻りたいと無意識に思っていたんだ。

彼のことが大好きだった高校生のときは

自分の将来に不安なんてなく、

夢は実現できると信じていた。

大好きな友達が毎日一緒にいて

泣いたり笑ったり忙しかった。

辛いこともあったけど、

それを忘れるくらい楽しいことのあった毎日を、

私は一人でいつまでも引きずってしまったのだ。

きっと彼をとおして、

毎日楽しく過ごす本当の自分の姿を夢見てしまっていたのだ。


彼ができても何も変わらなかった。

毎日

「こんなはずじゃない」と思い続けた私は

仕事以外で彼以外の人に会うのも面倒になった。

彼からの電話に出るのすら面倒になった。

ある晩仕事から帰った私は
ムショウに甘いものが食べたくなった。
夜9時を過ぎていて面倒だったけれど
衝動が抑えきれずに近所のス-パ-で
パン5個と甘いお菓子やスナック菓子など
1週間分はあると思われる量を
買い物袋いっぱい買った。
家に帰ってテレビを見ながら食べた。
1つのはずが止まらず、結局全部食べてしまった。
苦しくて動けなかった。
少したって

「ダメだ。吐こう」

と思った。
はじめて過食嘔吐した時と同様トイレへ行き、

手をつっこんで吐いた。
今度は一人だから、

吐けるだけ 気が済むまで吐いた。
涙で顔がむくんできた。
頭は重くなったけれど、胃が軽くなって楽になった。
「明日は何かいいことあればいいなぁ・・・」

と思いながら
目の腫れが少し落ち着くのを待って眠りについた。


次の日夕食を買いにデパ-トへ行った。
閉店間際でケ-キが半額になっていた。
「自分にご褒美」

として2日に分けて食べようと5個買った。
家に帰って夕食を食べてからケ-キを2つ食べた。
しばらくテレビを見ていると、
ふと急に

「ケ-キ2個も食べたから吐かなくちゃ」

と思った。
でもお腹にはまだまだゆとりがある。
もっと食べた方が楽に吐ける気がした。
「どうせ吐くんだから食べたいだけ食べて満足すれば
明日はそんなに食べたくならないかもしれない」

と思った。
「いつの間にか『太るかもしれない』って
食べたい気持ちを我慢してストレスになってたのかもしれないな。
よし今日は好きなものを好きなだけ食べよう!」

コンビニへ行き
食べてみたいと思っていたパンやお菓子やアイスを買った。
買っただけで少し満足した。
家に帰ってまず
残ってるケ-キ3個を食べた。
いくら甘いもの好きの私でも
甘いものばかりを食べ続けるのは大変だったので
しょっぱいスナック菓子を食べてみた。
1袋無くなる頃また甘いものが食べられる気になった。
好きなだけ食べて たまにお茶を飲んだ。
お腹が苦しくなった。
パンとお菓子が1個ずつ残った。
明日の昼間に食べようと思った。
トイレへ行って吐いた。
「明日の夜からダイエットしよう」と思った。


次の日の夜
少し少なめに夕食の買い物をした。
夕食をすませて見たくも無いテレビを見ていた。
今日は楽しみにしていた連ドラの日だなぁと ふと時計を見た。
8時35分


ドラマ開始まであと25分


何か食べたい。


でもせっかくダイエットしようって決めたし。


でも食べたい。


昨日のお菓子1つ食べちゃおうか。


食べてしまった。


8時45分


何で食べちゃったんだろう。
せっかくのダイエットが振り出しに戻った。
今日はもうダメだ。
ダイエットは明日からにしよう。


8時50分


急いでコンビニへ


昨日食べて美味しかったものが中心の買い物。


家に帰ってドラマを見ながら食べた。
前日と同じように甘いものがいらなくなってきたら
しょっぱい物を食べた。
そしてまた甘い物を食べた。


苦しくなって

トイレへ行って吐いた。


「明日からダイエットしよう」


思いながら眠りについた。


まさか次の日も次の日も同じことが起こるとは思いもしなかった。
夜の過食嘔吐が毎日の日課になった。
仕事はきちんとした。
仕事はそんなに嫌ではなかった。
もともと人と接するのが好きな私は受付にたつのが好きだった。
ただ

「小学校の先生になりたい。今の仕事は本当にやりたい事ではない」

「今の自分は本当の自分ではない」

と毎日思っていた。


夕食を買いに行った際に食べたい衝動にかられ大量に買ってしまう日もあれば
その時は我慢できて家に帰って一段落してから

食べたい衝動が抑えきれなくてまた買い物に出かける日もあった。
そのうち美味しくて気にいって毎日食べていたものが飽きてきた。
食べたいと思っていたお菓子やパンも何度か食べるうちに飽きてきた。
並んでいる商品を見て「美味しそう」と思ったものを選んで買って食べていたのに

「美味しそう」と思わなくなった。
選ぶとき
「これ食べてみたい」だったのが
「これでいいか」になった。


いつの日か
食べたい物を食べてしまって後悔して吐く
だったのが
お腹に物がある状態が嫌で吐くために食べる
になっていた。


そんな自分がとても嫌いだった。

でもどこかで自分を信じていた。
眠りにつくときは
「明日はこんなことにならない」と・・・